禁煙アフォーダンス


Robert Watts /Hand With Cigarette, Pea On Placemat. via MoMA BLOG


週刊文春で"シャブ&飛鳥"と報じられ、先日初公判のあったあの方のTVニュースを観ていたら、覚せい剤中毒更生施設で行われている幾つかの療法の内ひとつが、私が以前自己流禁煙した時と同様だったのでちょっとビックリしました。

それは『疑似摂取』というもので、方法もその名の通り。
注射派の人は、覚せい剤以外の無害な物質を、覚せい剤をやっていた時のように同じ器具を用いて自分で注射する。
炙り派の人も同様に専用パイプで炙って摂取するというもの。

私は現在も止める気のない喫煙者ですが、過去に喉を患って数か月禁煙必須の状態になった事がありまして、その時、正に前述した『擬似摂取』を行ったのです。
禁煙パイプのような触り心地も咥え心地も違うものでは全く満足できなかったので、本物のタバコから葉だけを抜いてティッシュを詰め、先端は紙部分がちょっと焦げ、火がついているようにリアルに着彩。
周囲の人が本物と見間違えた程に命を吹き込んだ自作疑似タバコを持ったり咥えたりだけで、ニコチンガム含む、普通のガム依存等々も一切なく数か月の禁煙に成功。
(端から止める気は無かったので、喉の状態が良くなったのと同時にまた喫煙しはじめましたが・・・)



さてタイトルにある"アフォーダンス"ですが、余り耳慣れない概念なのでバッサリ言うと
 
私たちの周囲にある物質含めた広義の「環境」が、人や動物などに与える「価値」や「意味」のことです。

例えるなら、"タンスに取っ手が付いていたら引けば良いことがわかる"
これを言い換えると、"タンスの取っ手(環境)が、私たちに引く(意味)と、開けられる(価値)を与えている"
この時、"タンスの取っ手と私たちにはアフォーダンスが存在する" "タンスの取っ手は私たちが開ける行為をアフォードしている"と言います。

スマホユーザインタフェースやボールペン等々、身近に色んなアフォーダンスが存在してることがわかるかと思います。



しかし、タバコや覚せい剤は本来私たちにアフォードしていません。
使用し、依存した人に発生する、パブロフの犬のような、経験による「刺激」の結果の条件反射として捉えるべきものだと思います。

でも、本当にそれだけなのかなと。。

喫煙者の多くが、単なるニコチン依存ではなく、「行為」への依存も大きいのではないでしょうか?
私の例で言えば、パソコンの前に座るととりあえず一本吸いたくなる。
集中して絵を描いて、ちょっと一息つきながら画面全体を眺めて確認する時、お酒の席でなんとなく、コーヒーと共に、そして食後……

これらから得られるものが「ニコチンの摂取」という「刺激」だけに限られるのであれば、喫煙はパブロフの犬のような条件反射です。
しかしニコチン依存だけの可能性は限りなく低いと、喫煙者の一人として断言します。
タバコを取り出し、指で挟み、咥えるといった一連の「行為」に「意味」があり、喫煙者はそれと同時にニコチン摂取という「価値」を得ている。


この時、タバコと喫煙者の間にはアフォーダンスが存在していると言っても良いのではないでしょうか?

アフォーダンスは「刺激」ではなく「情報」です。
タバコを前にして、喫煙者は「刺激」に反応するというより、タバコという「情報」から「意味」「価値」を見出しているという表現の方がしっくりくる気がします。
目の前に、「意味」と「価値」のあるものがある……かなりキツイですよね。



ここで、冒頭の『疑似摂取』です。
その「行為」に「意味」のあるものが、なんと「価値」を与えない!

例えるなら、幾度も開いて開いて、やっぱりおやつは入ってないと分かりきっている戸棚の扉をまだ開けますか?という感じ。


タバコも薬物もアルコールも、依存から抜け出るのは並々ならぬことだと思います。
当然、身体からの離脱症状もあります。
でも、習慣化した「行為」依存に関しては、『疑似摂取』はかなり有効なのではないかと推測します。
「行為」と「価値」の断絶によって、アフォードしなくなるのではないかなと。

というわけで、禁煙したい方には、ニコチン依存への対処以外に、「行為」依存も断ち切るため、限りなく本物に近い疑似タバコをおしゃぶり代わりにする『疑似摂取』をお勧めします。
…数か月の禁煙には成功しましたが、なにぶん現在進行形喫煙者の私の言葉なので、些か説得力に欠けるのはお許しください。



「行為」依存も、食後などの一定の条件下に発する条件反射なのかもしれませんが、その条件反射は本当に「価値」の不在だけで脱することができるのかが疑問なんですよね。
だから私はアフォーダンスが関係するのではないかと思ったのですが、タバコや薬物、アルコールはやっぱりアフォーダンスと無関係!といった異論反論も受け付けております…。

概念はともあれ、『擬似摂取』には依存脱出の可能性があると思っています。

あと、タイトルは椎名林檎っぽくつけてみただけで、意味を成してません。あいすみません。