巨大な怪物、名を失うということ


木曜 寒さで目を覚まして時計を見る。7:05。目覚ましが鳴るまであと5分。隣を見ると夫がいない。猫に起こされてごはんあげてるのかと思い、布団かぶって二度寝。目覚ましが鳴る。隣に夫が寝ている。「あれ?さっき起きてなかった?」「起きてないよ」。あんなに現実感あるついさっきのことなのに夢?そんなまさかと思い出す。夫がいないベッドを柔らかい朝日が照らし、カーテンが揺れている。という所で、夢だったと気づく。うちのベッドルームは遮光ロールカーテンだ。美しい光も揺れるカーテンも幻だったけど、夫がいる世界に帰って来れて良かった。
検温37.2℃ 今日は低めだ。テレビで、ケイト・スペード躁うつ病だったが適正な治療を行っていなかったと。アメリカの上流階級では自然療法など代替医療に向かう傾向があるとモーリー・ロバートソンが言う。ジョブズはそうだったなと思い出しつつも、双極性障害がまた殺したのかとぐるぐる。この病気の自殺率は異常に高い。特に自殺が多く危険なのは躁うつ混合の時。うつの思考に行動力が伴うから。きっと日々誰かが殺されている。けれど、顔と名前と物語を持つ相手に、人は”誰か“と同様には見れない。
念のため冷えピタをバッグに入れ、ビョーク聴きながら社へ。

通勤車内でケイト・スペード関連を検索するが野良Wi-Fiに邪魔され不安定なのでツイッターで検索してみる。ある預言者が10日前に警告していたことが現実のこととなったというツイートが死ぬほど出てきて死ねと思う。服飾デザイナーの自殺の可能性も書かれてはいたけど、有名スポーツ選手の怪我とか他にもありそうな出来事が死ぬほど羅列されてるのになんで信じるんだよと思う。私は、もし自分の大切な人の自殺を「星が示していた運命」なんて言われたら死ぬほど怒って死ねと思う。自殺の予言が当たったと騒ぐなんてそれとどう違うのか。だから警告に耳を澄ませて気をつけましょう?信者を増やすのは勝手だが人の自殺を宣伝に利用するのは下劣だし愚弄だ。


ケイト・スペード関連テキストをいくつか読む。現在は買収や売却によって一切の株式を有しておらず、ブランド自体にも一切関わっていなかったことを知る。彼女は《ケイト・スペード》というアイコンと化していた。ファッション業界でデザイナー自身がアイコン化することは多いが、存命にも関わらずブランドに一切関わらずアイコンであり続けている例はそう多くはないのではないか。
彼女にとってブランドイメージを崩さないことが最も重要だったと実姉が語っている。そのために入院治療を拒否していたと。彼女は代替医療を考えてなどいなかった。《ケイト・スペード》というアイコンであり続けるために治療を拒否していたのだ。
自身の名前を冠するも自身の計り知らぬ巨大資本が消費されている様は、どのように見えていたのだろうかと思う。それはまるで自分の名前を名乗る顔のない巨大な怪物のようだったのではないかと。
2016年、彼女は「2つの世界を分ける」ために自分の名前を正式にケイト・バレンタインに改名している。バレンタインは祖父のミドルネームだと言う。これは《ケイト・スペード》というアイコンとしての自分と、実際の自分の世界とを分けるためであろう。彼女は既にケイト・スペードという名前を失っていた。巨大な怪物に、その名を奪われていた。
ケイト・スペード》の”スペード“は、設立時のパートナーであり、現在の夫でもあるアンディ・スペードのファミリーネームだ。彼女は離婚を告げられた時、とうとう”スペード“を突きつけられたのかと思ったのではないか。それはまるで《ケイト・スペード》というかつての自分の名前を持つ、顔のない巨大な怪物に頭から喰われるような思いだったのではないだろうか。

スペードのエース Wikipedia より
少なくとも英語圏の国々においては、スペードのエース〈英: Ace of Spades, スパディル (spadille)[1]としても有名である〉は、ゲームによって多少の差違はあれど、トランプのデッキにおいては伝統的に最高のランクを持つカードとして知られている。一方で、古くからの伝説や伝承においては「死のカード (death card)[2]」として認知されている。

以上は本日の日記からの抜粋です。一部荒々しい言葉や表現がありますが、公開するつもりのない文章として書かれた経緯を尊重し、あえてそのままとしました。ご了承ください。
夫が「別居しているが離婚協議はしていない、抗うつ剤などの服薬もしていた」と、実姉とまた異なった表明をしている報道もありますので、上記はあくまで私の見解です。

冒頭画像は http://middlechildcomplex.tumblr.com/post/8650058294 より引用