山の孤独と街の孤独

夫の実家・大分の山奥は、深刻な過疎化の進む山奥。
すでに老人が数人住んでいるのみで、恐らくあと十数年で無くなる。
…それは暗黙の了解。
だからこそ義母も土地を離れがたく、愛し、慈しみながら暮らしている。

周辺には街頭が一本のみ。
夜の闇はひたすら暗く、黒い。
月と星が出ていれば見事な宇宙が広がるけど、
曇天の夜はまさに漆黒の世界になる。

あたしは幼児期の記憶のせいで酷い暗所恐怖症なのだけど、
これが不思議と怖くないのだ。

お化けとか神様とかはいるなって感じの独特の恐怖感はあるし、
森の中に入って行けるほどの勇気はないのだけど、
東京にいて感じるような恐怖感はない。


それって、山の孤独と街の孤独の違いかなって、
真夜中にひとり目が覚めた時に思った。

山の孤独は深く、深遠。
どんどん自分の内部世界に入っていくような孤独感。
そういうのって、案外心地の良いもので
じっと自分と対峙できるような、暖かい闇。

反面、街の孤独は神経症的だ。
どうしようもなく他人を欲したくなるような孤独感。
自分と対峙することが恐ろしくなる。
本物の闇ってこういうことをいうのかなって。


夫は、本屋はもちろん商店すら近くに全く無い環境で育ったのに
本やマンガ、音楽、美術、歴史、民俗学なんかにもすごく詳しくて
それがとっても不思議だったのだけど、なんとなく分かった気がした。

山の孤独が、彼に文化を欲させたのだろうなって。
とてつもなく強い知識欲を生んだのは山の孤独かなって。
彼の土台を築いたのは山の孤独かもなって。


山奥で、ひとり本を読む若かりし彼を想像して、
あたしはなんだか幸せな気持ちで再び眠りに落ちた。



※このテキストは2009年に書いたものに少々の修正を加えたものです。
 先日帰省した折にも同じ事を感じたので掲載しました。